2000.6 

かしわ・ライブパラダイス!

==By上野さくら==

雨の日の柏ステーションデッキは、憂鬱。改札口から吐き出されるように流れる人の 波が、色とりどりのパラソルをひるがえしして、そそくさとあちらこちらへ消えてい く。1分でも早く目的地に着きたいと思うのだろう。人の波はただ、無表情のまま、 よどみなく、機械的に通り過ぎて行くだけだ。

いつもは多少の愛想を振る舞いながらチラシやティッシュを配る人たちも、こんな日 は別人のよう。与えられたノルマをこなせるかといった必死の形相で、あるいは、な かばあきらめたような憮然とした顔つきで、行き過ぎる人の手を何とかつかまえよう と関所のように立ちはだかる。雨の日の柏は、どこにでもある、ごく普通の駅でしか ない。

梅雨の合間の晴れた日の午後、柏ステーションデッキは、息を吹き返したように活気 を取り戻す。アマチュアミュージシャンたちが思い思いのスポットで、ストーリート ライブを始めるのだ。かつてこの場所で演奏し、メジャーデビューを果たした“サム シング・エルス”をめざしてか、柏市周辺はもとより、筑波や大宮、東京都内など、 遠方から多くのミュージシャンがここでのライブを楽しみにやってくる。

ある土曜日の午後、吉祥寺からやってきたという“コッパー・ブルー”に出会った。 メンバーは、女の子1人、男の子2人。いずれも20代で、アルバイトをしながら、 都内のライブハウスやストリートで演奏活動を続けているという。

柏でのライブは2回目というこの日、すでに数人の女の子が彼女らを待ちかまえてい た。ライブが始まると、周りを気にすることもなく、演奏に合わせ、楽しそうにスイ ング。「前回、ライブを聞いてすっかりファンになっちゃった!」という、市内の女 子中学生たち。ライブ終了後もメンバーたちと楽しそうにおしゃべりしている姿が、 とってもイキイキしていて、まぶしかった!憧れのミュージシャンとこんな時間がも てるのも、ストリートライブならでは。少しでも早くお気に入りのグループを見つけ て、ファン第1号になりたい!という思いで、遠方より駆けつける中高生も多いよう だ。

「本当は、都内でもっとストリートライブしたいんだけど、何だかんだとうるさく言 われて、追い出されちゃう」と“コッパー・ブルー”。「柏はその点、若者にすごく 寛大な街だって聞いてたの。実際来てみて、すごくよかった!聞いてくれる人はもち ろんだけれど、通り過ぎる大人たちの視線が、冷たく感じないもんね。」

そう、本当にそうなのだ!柏駅デッキでライブするミュージシャンたちに話を聞く と、口をそろえたように「柏は、若者に優しい街」と言う。事実、柏の街には、若い 人たちの活躍をバックアップしていこうという気運がある。そして、そんな柏の街の あったかさが私はとっても好きだ。都内より転居して13年。このごろようやく、こ の街に住んでよかったなと思えるようになってきた。

帰りがけ、そごうデパートの近くのちょっと奥まった場所で演奏している高校生グ ループを見かけた。「ねえ、こんな所じゃ目立たなくてもったいないよ。もっと広い 所で演奏したら?」と話しかけると、「あっち(東口改札正面)は、アンプを使うグ ループが演奏する所だから、ちょっとね・・・。それに、そっち(ステーションモー ル北口)は病院があるでしょう。入院している人の迷惑になるから、演奏しないよう にしてるんです」という。「はっきりした取り決めなんて別にないけれど、自分たち のライブを黙って認めてくれる街だからこそ、なるべく迷惑をかけないようにした いって、みんな考えているんじゃないかなぁ」

多い日には10組以上のグループが、思い思いのライブを繰り広げる街、柏。時に は、金髪や派手な化粧、突飛な衣装のミュージシャンもいて、オバさんたちは度肝を 抜かれるけど、若者たちの心は以外に純粋だ。夢と希望に向かってまっしぐらに進 む、若きストリートミュージシャンたち。君たちの情熱とほとばしる汗を肌で感じる と、オバさんの私も、モリモリやる気がわいてくるよ!

さあ、雨が上がった。私もこれから、取材に飛びだそう。 そして・・・。今日もまた、柏駅で熱っぽく演奏する君たちを応援しに行くからね! !