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深い木立のなかのキャンパス |
その名も「ナンジャモンジャ」。これは、関東地方特有の呼び方で、その地域では見ら
れない種類の大木をさして呼ぶらしい。廣池学園のナンジャモンジャは「ヒトツバタゴ」
というモクセイ科の植物だと、説明書きにある。
キャンパス入口で訪問の許可をいただき、中に入ると間もなく一面に真っ白い雪をかぶ
ったような、こんもり繁った大きな木が目に飛びこんでくる。そばに近づいて見ると、細
長い可憐な花びらが無数についている。その美しさ珍しさに、首が疲れるほど見入ってし
まったものである。
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ナンジャモンジャ(ヒトツバタゴ)の木 |
広いキャンパス内には、ナンジャモンジャのほかに「楷(かい)の樹」という日本に数
本しかない貴重な木もある。中国の学者・孔子の墓のそばに生えていた木の種子を贈られ
たもので、昭和11年の学園創設から間もない頃にここに植えられたという。植物学者・
牧野富太郎博士によって「孔子の木」と名づけられたこの木は、秋になると燃えるような
色に染まり、これまた見事である。
これらのほかにキャンパス内には、珍しいハンカチの木、ハナミズキ、マロニエ、バラ
、ツツジ、自然のままに枝を伸ばした桜などが生い茂り、四季それぞれに素晴らしい自然
の舞台を演
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「廣池千九郎記念館」入口 |
出してくれる。外の喧騒とはまるで別世界のような恵まれたこの環境に、思わ
ず公園と勘違いして入ってくる人も多いという。
この緑深いキャンパスの一角に、学園創立者のあゆみを紹介する「廣池千九郎記念館」
がある。入口のフロアに腕をあげた大きな銅像が建っていて、「わしの腕は細いけれども
ストロングアーム(強い腕)だ。なにも恐れるものはない、この腕にすがってきなさい」
という意味の言葉が書いてある。
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深い木立のなかのキャンパス |
1866年、大分県中津市でうまれた廣池千九郎は、人類の平和と幸福を実現するため
には、民族や宗教を超えた道徳の確立がなにより大事と考え、科学の分野も含めて中国の
古典や、古今東西のあらゆる思想家や哲学者の研究に邁進し、道徳科学(モラロジー)の
教えを拓いた不屈の人である。
館内でまず目を引くのは、身につけていたという質素な衣類や、病身に欠かせなかった
カイロなどの品々、そしてなにより国内外にむけての的確な提言や、「たとえ貧しくても
心は豊かに」と願った訓示の数々である。わが身をいとわず人
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幼稚園前の美しいバラ園 |
の世に捧げ尽くしたその一
生にふれ、なんの予備知識も持たずに訪れた私は、深く胸を打たれた。
この学園では、「単なる知識だけでなく、人間性を高める教育こそ真の教育である」と
いう創立者の理念のもとに、幼稚園から大学(麗澤)までの教育がおこなわれている。園
内を訪れた人たちに交じって、芝生の上では高校生らが円陣を組んで討論を楽しんでいた
。なんと微笑ましく心地いい風景だったろう。
この素晴らしい園内を散策させてもらうには、入口警備室に申し出て記帳することにな
っている。一般にも開放されてはいるものの、あくまでも教育の場である。マナーを忘れ
ず楽しみたいもの。来年もまた元気で、あの美しいナンジャモンジャに会いに行きたい。