2003.3.3


<庭野すみれの なんでもウオッチング>
見て、見て! 私たちの絵 ホットな空間 自閉症児の墨絵教室      

(記)庭野すみれ


先月、ふと立ち寄った寺島文化会館で、自閉症の子供たちが描いたという墨絵の展 覧会を観て、心を熱くした。大人でも躊躇したくなる墨の筆で、どうしてこんな にも力強く、伸びやかに描けるのかと感心、ぜひ教室をのぞいてみたいと思った。

この教室は、柏市の自閉症児者を持つ親の会で設立された「NPO法人自閉症サポー トセンター」が 中心となって、柏市教育福祉会館で毎月開かれており、市外からの 児童も受け入れている。

墨絵の指導をされている柳幸子先生は、都内で長年障害児の養護教育に携わってこ られ、教え子の作品が都の美術展で優秀賞をもらったという実績を持つベテラン先生 である。この柳先生とサポートセンター理事長の松井宏昭さんに取材を申し込むと、 快く承諾してくださった。

さっそく訪問してみると、和室に大きな机が四ヶ所設けられ、ボランティアのお姉 さんやお兄さんがサポートしていた。まずは目の前に置かれた野菜や花などの画材 を、しっかり観察するところから始まる。

はい!取れたてのカブ

この日は先生がナスやイカを持参。「ほらほら触ってごらん、冷たいよね、痛いよ ね」などと、イカのひんやりした触感や匂い、ナスのトゲなどをみんなに実感させ、 発見するよろこびを感じさせる。

Yちゃんの前にはチンゲンサイが置かれた。お父さんが葉っぱを一枚取って 見せる。でもなかなか描き出せない。気が乗るまで忍耐強く待つ。やっと描きはじめ たものの、どこかつまらなさそう。「感動してないね、よし変えてみよう」と、柳先 生。

画材がチンゲンサイから赤カブに変わると、Yちゃんは、あっという間に3個の 赤カブを描いた。ピンクのスイートピーもひょいひょいと描きあげる。かたわらで、 かいがいしくお世話をする妹のNちゃんの姿が、なんともほほえましい。

Mちゃんは、何も見ずにミカンを描いた。柳先生は、「頭で描かないで、よく観 察して描くように」と指導。そして赤カブの葉っぱのギザギザを指導しようとする と、「イヤ!」ときっぱり拒絶。そして自分で素早く葉っぱを描き、横に「ぎざ」と 書き入れて、みんなを笑わせた。その感覚の鋭さには、本当に驚かされた。

エビは生きている

K君んは、ボランティアのお姉さん、お兄さんに囲まれ、ナスを何枚も描き、そ のたびに手をたたいたり寝転んだり。でも表情が豊かで、とてもうれしそう。作品も ナスの持つ特徴がよく出ている。 イカを描いたAちゃんは、一枚目、二枚目、三枚 目と、ぐんぐんよくなり、画面いっぱいの素晴らしい作品になった。

最初のころは、、葉っぱ一枚えがくのも大変だったという。心の内部を引き出し 表現につなげさせ、外へ外へと心を開放させてゆく。家族とともに来て、時間を共有 することも、いい結果につながっている。「成長をよろこびながら見ていま

色彩鮮やかな力作ぞろい

す」と、 柳先生。

展示会場で、「自閉症児が描いたなんて、ウソだろう」と、つぶやいた人がいたと いう。でもこの教室を見たなら、その認識が改まるに違いない。もちろん柳先生はじ め家族や大勢の協力あっての作品ではあろうけれど。

「自閉症」という言葉には、<硬く石のように閉ざした心>といった暗いイメージ があって、必ずしも適切な言葉とは思えない。子ども達は、心を許せる人かどうかを 直感的に見分けるのだという。自閉症はコミュニケーション障害の一つとされてお り、他者とのコミニュケーションを通わせることは苦手だが、関わり方ひとつで、未 知の才能を輝かせることも可能なのだ。

サポートセンターでは、この子たちが豊かで幸せな人生をまっとうできるよう、多 くの人の協力を呼びかけている。そしてかれらの作品をひとりでも多くの人に、ぜひ 見てほしい。作品は次のところでみられます。

 かしわっ葉まつり
          場所  柏市教育福祉会館
         日時  3月8日(午後1時〜午後4時)
              3月9日(午前10時〜午後4時)