2006.11.23

<庭野すみれの なんでもウオッチング>
「こ、これはいったい何なんだ?」

(記)庭野すみれ

柏駅前通り商店街(ハウディーモール)を占拠した
グラインダーマン流パフォーマンス

グラインダーマン画像




駅前通りになにやら黒い箱が用意される頃から、「いったい何がはじまるんだろう」と、通行人の視線が集まり始めた。二人のおばあさんが「たけしが来るんだって?」と興奮気味にやってきて、花壇のふちに陣取った。

このエキサイティングな催しは、柏駅前通り商店街(ハウディーモール)がアートイベントのひとつとして企画したもので、出演に応募した一般市民は、2日間みっちりグラインダーマンの指導を受け、この日の本番にのぞんだ。



グラインダーマンは、「己の身を削る」をコンセプトに1997年より活動開始。テレビ番組「誰でもピカソ」での、アートバトル初代チャンピオン獲得を皮切りに、イベントはもちろん、映像、デザインの分野までボーダレスに活動するパフォーマンスユニットである。
11月23日、午後3時、いよいよパフォーマンスの開始。商店のなかからつぎつぎに出てくる黒い箱をかぶった集団。手首をちょこんと折り曲げて、マリオネットか幽霊のようなポーズでピョコピョコと歩く姿は、愛嬌と得体の知れない無気味さを感じさせる。



彼らは、観客の高校生やおばさんの頭に箱をかぶせて仲間に引き入れたり、子どもと握手を交わしたり、いろんな仕草で道路を動き回る。観客は「なんだ、こりゃ?」といった表情でみんなニヤニヤ。高校生は「キャーキャー」とそれはにぎやか。



異様な無言劇を見ているうちに、宇宙からやってきた異星人が柏の住人と仲良くしたくて、コミュニケーションを試みる微笑ましい姿にも見えた。だが、場面は一人の箱をかぶらない人物の登場によって、一転する。

その人物から箱を奪われ、顔がむき出しになると、「きゃー!]と叫んで他の者の箱を奪ってかぶり、奪われた者はまた他の者から箱を奪ってかぶるという争奪戦が始まる。取られると途端に生気を失い、その場に倒れたり、夢遊病者のようにうつろな眼差しで歩いてゆく。きっとあの箱が生命線なのだ、と思わせた。



ふたたび別の箱をかぶって登場。だが「もう箱なんか要らない!」とばかりに地面にたたきつけ、上着も放り投げる。身をよじり、地面をのた打ち回り全力疾走して汗みどろのパフォーマンス。そして、最後に自分を取り戻したかのようにグラインダーマンは道の彼方に消えていった。




人間は仮面の力を借りて生きていることが多い。だが、本当は、仮面なんかなくても自分本来の姿で生きていく自信がほしいのだ。な〜んて、理屈ぬきに楽しめばいいのだが、ついそこに込められた意味や目的を考えてしまう哀しいレポーターの性(さが)

ところで、「たけしが来るんだって!」と興奮していたあのおばあさんたちは、いつのまにか居なくなっていた。
高校生に「どうだった?」と聞いたら、「オレらでもやれるよなあ」「おめえ、やってたやん」と言いつつ仕草を真似ながら、しばらく盛り上がっていた。

パフォーマンスもおもしろかったが、いろいろに変わる観衆の表情がまたおもしろかった。箱をかぶって別の自分に出会えたパフォーマーたち。それについていけないお年寄りと、大いに楽しんだ若者と…… 柏の街はにぎわいのなかに暮れていった。


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